グラン・クリュ

ランゲン

タンおよびヴュー・タン

太陽の恵みをたっぷりと浴びる孤立した急斜面に広がる火山性のテロワールは、熟練した忍耐強い手を必要とします。ランゲンは、この地で育つ全ての品種に火のような性質を与えるテロワールです。そのワインは、長い熟成期間によってもテロワールの痕跡を失うことは決してありません

  • 土壌の種類 火山岩、堆積岩
  • 栽培面積(ヘクタール) 22,13
  • 畑の方角
  • コミューン タンおよびヴュー・タン
  • Altitude 320~450m
  • ブドウ品種(割合%)
    • ピノ・グリ 57%
    • リースリング 32%
    • ゲヴュルツトラミネール 10%
    • ミュスカ 1%
Découvrir la carte interactive »

グラン・クリュ ランゲン

ワイン

テロワールへの取り組み

ワインの特徴

ランゲンのワインは晩熟型テロワール、火山性鉱物の力強さ、熱を吸収する土壌の特徴を備えています。そのためワインの中に並外れた奥深さ、そして個性的な力強さを見出すことが出来ます。

植栽密度の高さにもかかわらず、主に甘口や極甘口ワインを中心に平均的な収穫量は少なくなっています。そのため全てのワインに濃厚さと力強さが備わっているのです。日照条件に恵まれたテロワール(斜面、方角、トゥール川の存在、土壌の分光反射)が、ブドウに日光と熱のエネルギーを与え、ブドウの葉と根の適度な成長を促進します。全てのランゲンのワインで、ブドウの見事な生理学的成熟度と分析的成熟を基盤としたバランスの良さを感じることが出来ます。 

非常に独特な表土と下層土(鉱物を豊富に含む火山性土壌の構成とブドウの根が地中深くまで伸びることのできる構造、自然な排水性)が、ワインに力強い味わいを与えます。煙(または泥炭)の特徴、「火打ち石」の濃厚な香り、非常にミネラリーな酸味(磯の風味)として感じることができ、これはミネラル成分豊かな土壌から生まれるのです。そのため飲み比べの際、ランゲンのワインは、簡単に当てることが出来ます。 

年によっては、テロワールの地形、熟成型の性質、暑さや寒さなどの気温の変化、川の存在が、濃厚な色あいを持つ偉大な甘口ワインを生み出す貴腐菌を大発生させる原因となります。 

各品種は、テロワールの特徴をそれぞれの方法で表現します。現段階では、実験的にアサンブラージュのワインを生産していますが、グラン・クリュ・ランゲンとしてはもちろん認定されていません。

基本的にリースリングは、貴腐菌の付着なしの健康な状態で収穫し、主にミネラリーな辛口ワインを生み出します。より早熟なピノ・グリは、リースリングよりも早く糖度が高まります。ほぼ毎年、貴腐菌が付着します。

ここでのゲヴュルツトラミネールは、他の品種に比べ晩熟で、頻繁に貴腐菌が発生するため、タンニンの力強さが加わります。

そのブドウ品種に関わらず、ランゲンのワインは凝縮感があり、長く、奥深く、高い熟成能力を誇ります。ランゲンならではの特徴として、酸味と塩味の調和があげられます。過熟ブドウの場合でも、乾燥エキスと酸度が残糖量とのバランスをとることによって、火打ち石と煙の香りが消えないため、ワイン本来のアイデンティティが失われることはありません。

テロワールが持つ火の特性は、ワインの味わいと密接な関係にあります。真っすぐ伸びのある酸味が、唾液を誘う長い余韻に変化します。多くの場合、ワインは灰や焦げ臭、火打ち石のアロマが特徴です。

このテロワールは、忍耐強さを求めます。若いうちは閉じた硬い印象を受けるワインですが、5年から7年の熟成後、その本質を表し始めます。洗練され精密なリースリングは、火打ち石や岩水のようなミネラル感を感じさせます。ピノ・グリは、テロワールの特徴である煙や灰の香りを際立たせます。ゲヴュルツトラミネールは苦味のように感じられる塩味のアクセントにより、飲み心地の良いバランスと豊かさがあります。

ロマン・イルティス

2012年度フランス最優秀ソムリエ & 2015年フランス最優秀職人賞(MOF)受賞

選び方とサーブ

ヴィンテージ

1978年 :晩熟の年、とがったストラクチュア、ドライな味わい。非常に渋味がきついワインですが、見事な熟成能力をもつ。

1979年 :壊滅的な雹に見舞われた年。ワイン生産はなし。

1980年 :寒く雨天が続いた例外的に晩熟の年。ミネラル感と緊張感に注目したいワイン。非常に少ない収穫量。

1981年:平均的な早熟の年。軽やかな密度と素晴らしい優雅さが特徴。柔らかいワイン。熟成能力は中程度。 

1982年 :豊作(1ヘクタール当たり50ヘクトリットル!)、バランスと飲み心地が良く表現力豊かなワイン。熟成能力は中程度。例年に比べ、テロワールの特徴が控えめ。 

1983年 :暑く早熟の年。まさにランゲンらしいヴィンテージ。力強く、ドライで、熟成能力の高いワイン。品種よりテロワールが支配。 

1984年 :6月中旬に開花!寒く雨の続いた年。11月末に収穫。美しいミネラル感はあるが、余韻にかける個性的な辛口ワイン。ランゲンがその他のテロワールをはるかに超えた年。 

1985年 :晩熟でありながらもバランスの良い年。非常に乾燥し初秋。完璧な成熟度。繊細で引き締まり、表現力のあるワイン。美しい酸味を持つ辛口ワイン、見事なヴィンテージ。 

1986年 :バランスが良く、例外的に晩熟の年。11月末に収穫。非常に見事なバランス。辛口ワインだけでなく、初となるセレクション・ド・グラン・ノーブルの生産。素晴らしい貴腐菌。長期熟成向き。 

1987年 :7月頭に開花。寒く、成熟度が弱い、晩熟の年。またしてもランゲンが注目に値するワインを生産した年。生き生きとした素晴らしい酸味。密度は中程度。 

1988年 :平均的な早熟性、しかしヴァンダンジュ・タルディヴのため貴腐菌の付着したピノ・グリとゲヴュルツトラミネールの収穫は非常に遅れた年。リースリングは辛口。複雑でフィネスを備えた熟成型のワイン。熟成向きの偉大なヴィンテージ。

1989年 :暑く早熟でありながらバランスの良い年。リースリングとピノ・グリは辛口、そしてゲヴュルツトラミネールとピノ・グリで見事なセレクション・ド・グラン・ノーブル。密度が高く、力強い、表現力豊かな長期熟成型のワイン。

1990年 :見事なバランスを誇るヴィンテージ。少ない収穫量から複雑で力強く、奥の深いワインが誕生。辛口または、ほぼ辛口のワイン。貴腐菌の付着は無し、しかしパスリヤージュを実行。長期熟成型のワイン。

1991年 :暑さの後、晩熟となった年。少ない収穫量。ピノ・グリとゲヴュルツトラミネールで素晴らしい貴腐ワイン、リースリングは辛口。酸味と塩味の見事なバランス。熟成型のヴィンテージ。

1992年 :素晴らしい開花に続く、多くの収穫量。暑い気候。非常に早く開く、飲み心地の良い気軽なワイン。熟成能力は中程度ですが、現段階でもまだ非常に心地よいワインです。

1993年 :雨期に挟まれた難しい年。非常に遅い時期に収穫、大量の貴腐菌が付着。セレクション・ド・グラン・ノーブルは非常に密度が高く、色が濃厚にもかかわらず糖度は低め。極端なワイン。長期熟成型。

1994年 :ランゲンで晩熟の非常に偉大な年。気まぐれな天候の10月。見事な複雑性と深さを持つ辛口および甘口ワイン塩風味の酸味。長期熟成型のワイン。

1995年 :非常に少ない収穫量(辛口ワインは1ヘクタール当たり25ヘクトリットル)、晩熟の年。強い酸味、ピノ・グリに貴腐菌が付着。見事な塩味、非常に強烈なテロワールの表現力。長期熟成向き。 

1996年 :平均的な収穫量、比較的涼しかったものの乾燥して晴天の年。貴腐菌の付着は少なかったもののピノ・グリとゲヴュルツトラミネールの甘口とリースリングの辛口に見事な凝縮感。強い酸味、長い余韻、高い密度。素晴らしい熟成能力。

1997年 :より暑く、晴天に恵まれた太陽いっぱいの年。非常に早熟、見事な成熟度、しっかりと熟した中程度の酸味。力強く表現力豊か、非常に純粋で熟成向きのワイン。

1998年 :平均的な収穫量。10月の晴天と見事な貴腐菌の発生条件。甘口と極甘口のワイン。見事な酸味と甘み。非常に色づきの良いワイン。テロワールの力強さと高い熟成能力。

1999年 :例外的に晩熟の年。11月19日に雪の中、収穫終了。リースリングは辛口、ピノ・グリとゲヴュルツトラミネールは甘口。見事な強さと力を持つ驚くほど豊かなワイン。高い熟成能力。 

2000年 :暑く早熟の太陽の恵み溢れる年。早く順調に進んだ成熟。貴腐菌によって、まろやかで非常に力強いワイン。中程度の酸味、しかし見事なテロワールの力。熟成向きの偉大なワイン。

2001年 :晩熟の非常に偉大な年。非常に素晴らしい10月。太陽の恵み溢れるヴィンテージ。見事なフィネス、美しい酸味のある奥深いワイン。ピノ・グリとゲヴュルツトラミネールに貴腐菌。見事な熟成能力。

2002年 :素晴らしい初秋を迎えた非常に晩熟の年。貴腐菌の大量発生。素晴らしい酸味。特徴的な色合い。絶妙な甘さ、テロワールが凝縮したリッチなワイン。長期熟成型。

2003年 :非常に早熟の年。記録的な暑さと異常な乾期。特に若いブドウの木と混植が非常に苦しんだ厳しい年。低い酸味、しかし見事なタンニンとミネラル感。

2004年 :季節はじめは早熟、続いて晩熟となった年。見事な成熟度、しかし10月末の悪天候により、甘口ワインの生産が不可。貴腐菌の発生初期、ミネラリーで非常に力強い辛口ワイン。素晴らしい熟成能力。

2005年 :素晴らしい初秋を迎えた晩熟の年。ピノ・グリとゲヴュルツトラミネールに見事な貴腐菌。少ない収穫量。エレガントで力強く、熟した酸味による驚くほどしっかりとした造りのワイン。テロワールの存在感を強く感じる。

2006年 :早熟であると同時に9月末の雨によって厳しかった年。主張する個性に注目したいワイン。貴腐菌の大量発生にもかかわらず、ピノ・グリは辛口。特徴ある色合い、見事な酸味、強い緊張感を伴う力強いワイン。信じがたいことに、熟成能力が非常に高いヴィンテージ。

2007年 :温暖な夏によって、バランスのとれた早熟の年。強い酸味に見事な力強さ。ピノ・グリとゲヴュルツトラミネールに軽度の貴腐菌。見事な辛口のリースリング。見事な気品、テロワールの豊かな表現力、熟成向き。

2008年 :素晴らしい初秋、やや晩熟の年。良く熟した見事な酸味。リースリングは辛口で緊張感あり。ピノ・グリとゲヴュルツトラミネールは見事な甘口。非常に奥深く優雅。永遠と言えるほどの熟成能力!

2009年 :太陽の恵みが溢れ、早熟でありながらバランスの良い年。柔らかく、力強く、長い余韻を持つワイン。早熟果実の素晴らしい表現力。ピノ・グリとゲヴュルツトラミネールはやや甘口。長期熟成向きのワイン。

2010年 :ランゲンでは晩熟の年。非常に少ない収穫量。素晴らしい初秋。デリケートでありながら、強さも備えたワイン。テロワールの濃縮感、塩系の見事な酸味。熟成能力の高い非常に偉大なヴィンテージ。しかし、判断を下すにはまだ早い。

2011年 :夏の冷気と雨の時期を含む、暑く太陽に恵まれた非常に早熟の年。エレガントで品が良く、平均的な酸味を備えたワイン。素晴らしい余韻と密度、比較的ドライ。しかし現段階ではまだ若いために、評価が難しい。

ランゲンは長期熟成向きのワインを生むテロワールの1つです。基本的にピノ・グリとゲヴュルツトラミネールは比較的早めに開き、リースリングは数年の熟成後に飲み頃となります。

早熟のヴィンテージ:果実の濃厚なアロマがテロワールの灰の香りを引き立てているため、比較的シンプルな印象を受けます。ミネラルの緊張感がやや柔らかいため比較的早めの7年目以降から楽しめます。 

晩熟のヴィンテージ:やや涼しかった年のワインは純粋な印象を受けますが、やや大人しいワインです。ここでは辛抱強く10年は寝かせましょう。ワインの肉付きが現れ、非常に濃厚なランゲンらしい煙のアロマが弾けます。

ロマン・イルティス

2012年度フランス最優秀ソムリエ & 2015年フランス最優秀職人賞(MOF)受賞

クロ・サン・ユルバンのドメーヌ・ツィント・フンブレヒトのワインから、お勧めのペアリング例

  • ピノ・グリ・ランゲン・クロ・サン・ユルバン2009セレクション・ド・グラン・ノーブルとローストしたフルーツのミルフィーユ。 
  • ピノ・グリ・ランゲン・クロ・サン・ユルバン2005とベシャメルソースの組み合わせは、ソムリエのエンリコ・ベルナルドのお勧め。
  • ピノ・グリ・ランゲン・クロ・サン・ユルバン2004と秋のフルーツを添えたランド地方産鴨のフォアグラの炭火焼き(エレーヌ・ダローズ)。 
  • ピノ・グリ・ランゲン・クロ・サン・ユルバン1991とリースリングのジュレを添えた鴨のフォアグラ(Le Français)。
  • リースリング・ランゲン・クロ・サン・ユルバン1988、1989、1994とブルターニュ産オマール海老とモリーユ茸、ヴュー・リースリングの煮込み(Auberge de l’Ill、 イローゼン)またはグリンピースのムースリン、バニラ風味のジュレ、フェンネルムース添え(Le Bristol、 コルマール)。
  • ゲヴュルツトラミネール・ランゲン・クロ・サン・ユルバン1986セレクション・ド・グラン・ノーブルとGrand-Mère Zindクリームのタルト(レストランle Lutèce、ニューヨーク)またはビターオレンジチョコレートのフィヤンティーヌ(Chez Laurent、パリ)。

テロワールのアロマ表現がペアリングのカギとなり、自然とグリル風味の料理を引き寄せます。脂ののった魚(サーモン、サバ、メカジキ、ヒラメ)、特に燻製に使われる魚と組み合わせる事がお勧めです。ワインの濃厚な塩風味が魚の脂っぽさを消し、煙の香りが魚の風味を高めます。その他には、フォアグラのポワレとランゲンの相性も抜群です。数年の熟成させたワインは、濃厚なアロマとトリュフの強い香りが組み合わさるため、リゾットの白トリュフスライス添えなどによく合います。

ロマン・イルティス

2012年度フランス最優秀ソムリエ & 2015年フランス最優秀職人賞(MOF)受賞

Rangen-2
Rangen2
Rangen3

グラン・クリュ ランゲン

テロワール

自然

ワイン街道の最南端、アルザス地方で最も南に位置するブドウ畑。ランゲンはその全体がグラン・クリュに格付けされている唯一の区画です。非常に急激な斜面で、排水性が高く、太陽の熱を蓄える土壌の性質から独自の個性を引き出しています。痩せて貧しい土壌、テラス状の段々畑での栽培は栽培者による熟練した作業と絶え間ない細心の注意を必要とします。

場所

渓谷の出口に位置するランゲンの足元にはトゥール川が流れ、タン市が広がります。ランゲンから周囲を見渡すと、荘厳なサン=ティエボー参事会聖堂(13世紀末から15世紀にかけて建設されたフランボワイアン・ゴシック様式)や「魔女の塔」(Tour des Sorcières、15世紀の旧城壁塔) 、エンゲルブール城などの眺めを堪能することが出来ます。 
1234年以降に建設され、現在は横たわった状態で残るこのお城のドンジョンは、ヴェストファーレン条約(1648年)の直後にお城が取り壊された後、地方内では「魔女の目」と呼ばれています。 

土壌

石炭紀(デボン紀末期のディナンチアン階)の火山岩および堆積岩(基本的には砂岩)から構成された土壌で、火山性物質が程度の差こそあれ豊富に混入してます。土壌を覆う石は、硬砂岩、凝灰岩、溶岩石、茶色の雲母安山岩など硬質な岩からきています。この複合土壌は、ひびの入った根源岩の上に、40から60cmの厚さの層を形成しています。基盤のひびによって、ブドウの根が地中深くまで伸びることができ、自然にに水を補給する力が高まります。

地形の性質と土壌の深さによって、痩せた、粘土質の少ないテロワールを生み出します。しかし、ミネラル成分の循環性が高いため、しっかりとブドウを育てることができるのです。さらに土壌が赤茶色と濃い色のため、表土の温度が高くなります。

同時に畑の方角が真南なため直射日光を受ける時間が長く、ランゲンの非常に急勾配(平均で90%)であることからテラス状の段々畑での栽培を余儀なくされています。 

ミクロクリマ

高い標高(350から450m)と比較的多い降雨量(年間750m)によって、ランゲンは晩熟型のテロワールです。早熟のテロワールと比較して、より寒くより雨の多い春を迎えます。

その代り、真南向きであることが独特の個性を与え手織り、夏には、ランゲンの土壌はまるでオーブンのように温められ、ブドウの木に必要な熱を与えるのです。

秋になると、朝霧が消えた後は、アルザス平野の湿気は麓に、丘の頂上は太陽の日差しで溢れるため、日中は暖かく、ブドウの成熟に大きく貢献します。 

特別な日照条件と降雨量が組み合わさり、10月および11月に、ブドウがゆっくりと成熟することができるのです。こうして、ブドウは非常に凝縮された高い糖度に達するのです。 

ブドウ品種

ランゲンの晩熟性が、ブドウの見事な成熟を促します。このような特性は、リースリングのような晩熟型のブドウ品種に取って重要な要素となります。その地理条件(勾配度90%、真南向き、暖かい土壌)にも関わらず、ブドウの生育はゆっくりとしており、比較的遅い収穫(公式の収穫開始日から2~3週間後)となります。 

暖かい土壌、高い排水性、酸性であることから、特にリースリングの栽培に適していますが、驚くことに石灰質土壌向きであると考えられるピノ・グリの栽培にも向いています。ランゲンでピノ・グリが順調に生育する理由は、収穫量の少ないテロワールであることがあげられます。 

その代り、区画の大部分は渓谷から流れ込む冷たい風にさらされるため、川のそばまたは丘の麓の区画を除いて、ゲヴュルツトラミネールの栽培は稀となっています。この風は、ゲヴュルツトラミネールの開花期に影響(さらに花ふるいを発生させる)を与え、または成熟を邪魔します。しかし、ここで栽培されるゲヴュルツトラミネールは、品種本来の特性をほぼ失い、火山岩由来の特性を表現するようになります。

人々

ランゲンでは、少なくとも13世紀からブドウ栽培が行われています。畑は主に複数の宗教団体が所有していました。ランゲンの豊かな歴史の中で最も印象的で最も有名な文献は、1580年タンにミシェル・エイケム・ド・モンテーニュが訪れたときのものでしょう。歴史的に困難な時期を乗り越え、現在、ブドウ畑の美しさは復活し保護されています。少なくとも1970年半ば以降、歴史あるテロワールと特殊な地形に愛着を抱く生産者が、時には厳しく時には寛大な特級畑の偉大さを表現することを目標に、環境保護を尊重した栽培に取り組んでいます。

受け継がれる遺産

ランゲンの歴史は、12世紀から13世紀ごろに始まります。ブドウ栽培はそれよりもはるか以前に行われていたと考えられますが、しかしこの区画における最初の重要なワインの取引はこの時期に集中しています。

  • 1272年:マールバッハ修道院の文献によると、ランゲンの丘全体でブドウ栽培が行われていました。
  • 1291年:バーゼルにあるドミニコ会修道院が、ランゲンに4スカディ(現在の16アールに相当)のブドウ畑を所有していました。タンはすでに、素晴らしいワインの生産地として有名であり、Rangenwein(ランゲンのワイン)は、「地元のワインで最も熱く、最も強烈なワイン」であると認識されていました。
  • 1292年:Masmunster修道院が、ランゲンにブドウ畑を所有していました。同様に、EinsidenのSaint-Ursitz修道院、オート=セイユのシトー会修道院(ムルト県とモゼル県)もこの区画にブドウ畑を所有していました。
  • 1296年:12月、バーゼルのBurchard zum Rosenという人物が、タンのランゲンにブドウ畑を購入しました。
  • 1469年:オーストリア大公がブルゴーニュ公シャルルの使節団に「大量のランゲンのワイン」を贈ったところ、使節団は「ランゲンのワインによって、勇気がわいてきた」と語っています。

歴史的な年 

1161年、タンの町が誕生してから数多くの年の記録が文献に残されています。 

その内容は様々ですが、Malachias Tschamser氏が『Chronique de Thann』に無数えきれないほど多くの記事を掲載しています:

  • 1186年:8月に収穫! 
  • 1189年:収穫量が少なかったためワインの価格が最高値を記録。
  • 1228年と1232年:非常に良い年。1232年は、砂の上で目玉焼きが焼けるほどの猛暑に!
  • 1274年:11月まで収穫が出来ず。
  • 1347年:不作の年。
  • 1431年:あまりにも豊作だったため、全ての樽が満タンに。参事会聖堂の建設に使うモルタルにワインを使用!

ヨーロッパ全土で愛されるクリュ

ワインの並外れた品質によって、ランゲンは遠い昔からアルザス地方の境界線をはるかに超えた土地でもその名を知られていました。タンのサン=ティエボー参事会聖堂にはドイツやイギリス、デンマーク、北欧から多くの巡礼者が訪れていました。巡礼者はランゲンにひどい苦痛を和らげることのできる「奇跡の源」があると信じており、その噂はッヨーロッパ中に広まっていたのです。中世時代を通して、修道院の活動は非常に活発で(例えばタンのフランシスコ会)多くの修道士がやってきては、祈り…を捧げるだけでなく、ランゲンのワインを味わっていました!地元に戻った彼らは、ワインの美味しさを周囲に語ったのです。1550年、セバスチャン・ミュンステールは、『Cosmographie de Thann』の中に次のように記しています:「タンは、エンゲルベルグの山の上にそびえるお城に見守られたフェレ領主が治める美しい町で、町のそばにあるラング(Rang)という丘から、ランゲンのワインと呼ばれる美味しいワインが生まれます」、この後に彼は、このワインが与える素晴らしい効果を書き記しています!

1628年、クラウディウス・デオダトス医師の『Pantheum Hygistticum 』には、最高のアルザスワインに関して書かれています。タンのランゲンはこの中に数え上げられています。

マリア・テレジア皇后(1740年~1780年)の時代、ランゲンのワインは王宮で飲まれていました。律修司祭メダール・バルトの著書によると( Der Rebbau in Elsass)、ルーウェンベルグ王子達の家庭教師であり、宮殿にも出入りしていた人物が「ウィーンでは近隣で生産されるワインよりも、タン全土で飲まれるよりも多くのランゲンのワインが飲まれていた」と語っています。 

1648年、ミュンステール条約によって、フランス国王ルイがタンの領主となったことから、オーストリア大公が所有していたランゲンのブドウ畑の一部の所有者となりました。

  • 1659年:タン市(住民数1150人)には、20名のワイン生産者がいました。
  • 1793年:革命によってサン=トュルバン教会(1480年建設)が取り壊されます。
  • 1897年:ブドウネアブラムシによるランゲンのブドウ畑の被害に終止符。
  • 1933年:ランゲンの斜面の中央まで、縦方向にのびる「chemin de Montaigne」の完成しました。
  • 1934年:再建されたサン=トュルバン教会の完成と祝典式。毎年、6月に開催されるワイン生産者のミサの終了時、ランゲンの生産者は教区の人々に彼らのワインをふるまいます。

詩人や作家が称え、語るワイン

タンのブドウ畑は、哲学者および作家のミシェル・エイケム・ド・モンテーニュが愛した土地です。1580年から1581年にかけて、ヨーロッパ旅行した際、次のように書き残しています:

タンから4リーグ。ドイツに着いて最初となる皇帝の影響を受けた非常に美しい村。広大な平野の左側には大切に育てられた最も美しいブドウ畑の広がる丘が見える。畑のあまりの広さに、そこにいたガスコーニュ人は、これほどのブドウ畑を今までに見たことがないと言っていた。

これは、現在ランゲンと呼ばれる場所を横断する道を作家が通った時に書き残した文です。

ランゲンのワインは、数多くの詩人にも称えられており、フィッシャルトは『Gargantua』(1607年)で次のように記しています:

Ja der Wein zu Dann, des Rangenweines, das steckt der Heylig Sanct Rango, der nimmt den Rang und ringt so lang, biss er einen rant und trengt unter die Banck.

そう、ランゲンには聖ランゴが住んでいる、彼は列をとり、ベンチの下に転がり落ちるまで、懸命に働くのだ。

ストラスブール出身の詩人セバスチャン・ブランドは、ランゲンのワインを非常に愛し、コルマールの紋章に関したある伝説を生み出しています:

ヘラクレスがヨーロッパを旅行した際、スペインのへレスからロワール地方を通って、ブルゴーニュ、続いてアルザス地方に到着しました。そこで彼は、オーベルジュ「Zum Wilden Mann」のワインを味わおうと考えたのです。オーベルジュの主人が、リクヴィールのワインを提供したところ、彼は美味しいけれど平坦だと思い、よりコクのあるワインを求めました。そこで主人は、ランゲンのワインを勧めました。このワインの信じられないほどの美味しさに、彼は3本のボトルを空にし、こう言いました。

Das ist ein Schluk, potzt Element,
Wie der in Kehl' und Magen brennt !
Herr Wirt, Ich Sag's auf meine Ehr,
Ich fand noch keinen Wein so Schwehr !

そして、彼は店内の隅で眠り込んでしまいます。彼は目を覚ますと大急ぎで出発し、肌身離さず持っていた棍棒を忘れてしまいます。しかし彼は、ランゲンのワインの強さを恐れていたために、棍棒を取りに戻ることは決してありませんでした。それ以来、この棍棒はコルマールの紋章の中に居場所を見つけたのです。

ランゲンのワインを題材とした文学、頌歌、歌、詩の数は多く存在します。この素晴らしいワインの美しさと力強さは、律修司祭バルトの『Der Rebbau im Elsass』を含む数々の作家によって称えられています。

厳格な規定

16世紀、赤ワイン品種の栽培も行われていましたが、ランゲンの大部分を占めるのは白ワイン品種(ミュスカおよびトラミネール)でした。1548年と1581年の政令によって、エルブリングなどの高貴品種ではないブドウ品種の栽培が禁止となります。この規則に従わない違反者は誰であろうとも罰され、苗木はすぐに引き向かれてしまいました。(ベルフォール歴史協会紀要に掲載された政令)同様に、ランゲンとそれ以外の区画のワインを混ぜたボトルに、ランゲンの名称を表記したラベルを貼ることも厳しく禁止されていました。当時としては非常に厳格な規定を通し、ランゲンのテロワールのアイデンティティがしっかりと守られていたことは明確です。1646年、三十年戦争に続くタンのブドウ畑再建の後、市の判事が4名のバンガルド(農業地の監視人)を指名し、ブドウ畑と農業地の監視に当たらせました。 

時代は流れ、産業革命とタン市の発展によって、広大なブドウ畑の面積が縮小されます。モンテーニュの時代は約500ヘクタールの広さを誇りましたが、2013年には22ヘクタール強しか残されていません。しかし、現在の特級畑は、丘の麓を流れるトゥール川、平野、丘に広がる森林、山などによって、大きな庭園のように区切られています。この独特な状況が、非常に豊かな動植物の生態系を生み出しています。

ブドウ畑と土地に対する愛情

ランゲンの特級畑は急斜面に広がっているため、非常に厳しい作業が要求されます。繰り返しますが、特級畑は斜面の勾配度は平均90%で火山岩が混入する土壌に広がっています。そのため、ここでは耕作から、せん定、せん定後の枝の運び出し、枝の焼却、苗の保護・・・そしてもちろん収穫など、全てが手作業になります! 

機械の使用が不可能なため、植栽密度を高めることが出来ます。ここでは、1ヘクタール当たり6000から100000本が植えられています。この植栽密度は、ブドウの木1本あたりの収穫量を低下させ、火山性基盤岩は貧しい土壌のため、ブドウの木は水とミネラル成分を求めて地中深くまで根を伸ばす必要があります。これがランゲンのブドウ畑の収穫量が少ない理由です。 

さらに土壌の性質によって、若いブドウの苗を植えることが非常に難しくなっています。ブドウの木はまず、土壌有機物の含有量が少なく、非常に高い排水性を持つ層に根をはるため、生産者は最大限の注意を払って「苗木」の成長を見守る必要があります。厳しい年には、若い苗木の3分の1を失うことは珍しくありません。

石と病害に立ち向かうブドウ栽培 

ランゲン特級畑の維持は非常に大変です。雨によって麓近くのブドウ畑に土が流れ落ちる土壌侵食の影響は大きく、悲劇的な結果をもたらします。そのため、生産者はドライストーンを使用した石垣で土壌を支え、毎年手入れを行っています。同じく、ランゲンはウインチを頻繁に使用する世界でも珍しいブドウ畑の1つです。 

標高と涼しい気候から、ランゲンではうどんこ病が発生しやすく、天候によっては必ず発生すると予測できる年もあります。しかし、気温の高い年、特に近年においては、べと病***が集中的に発生することが増えていますが、渓谷からの冷たい風と特級畑の標高が、大きな問題に発展することを防いでくれます。噴射器をトラクターに取り付けて使用することが不可能であり、手作業またはヘリコプターによる空からの薬剤噴射は効果が低いために、この特級畑での病害対策は困難となっています。そのため、これは不幸中の幸いと言えるでしょう。貴腐菌に関して言えば、何よりも、このテロワールの特産品ともいえるヴァンダンジュ・タルディヴまたはセレクション・ド・グラン・ノーブルの収穫期には、ランゲンに大きな問題をもたらすことはありません。

特別規定 

1993年、ランゲンの生産者は、ブドウ栽培と収穫を定義する憲章を制定しています。 

  • 特級畑全体でセクシャル・コンフュージョンを使用、農薬の使用禁止。 
  • 1ヘクタール当たりの植栽密度は最低6000本。 
  • あらゆる補糖行為は禁止。 
  • 収穫時の最低糖度は、リースリングおよびミュスカで11.5度(その後12度に引き上げ)。ゲヴュルツトラミネールとピノ・グリで13.5度(その後14度に引き上げ)。 
  • 最大収穫量はPLCなしで1ヘクタール当たり50ヘクトリットル。

2010年、地元管理の一環として、生産者は次の規定を加えます。

  • ブドウが持つ自然のバランスを尊重するためアシディフィカシオン(補酸)およびデザシディフィカシオン(酸度の調整)は禁止。
  • 収穫の最低樹齢は、植苗から5年後。

現在

ランゲンは1983年にグラン・クリュの格付け、2011年にAOCランゲン・グラン・クリュの認定を受けました。2012年、AOCの最高収穫量は1ヘクタール当たり50ヘクトリットルに設定されています。

将来を考えた取り組み

18世紀、ランゲン全域のブドウ畑で栽培が行われていました。1960年、戦争と産業革命の後、畑の4分の3が放置され、ランゲンの大部分が森林や雑木林で覆われてしまいます。現在、ランゲン全域が農耕地として復活し、ブドウ栽培が行われています。熟成能力が非常に高く、ボトルの中で複雑性を増すワインを生み出すことができることから、ランゲンは昔の栄光を取り戻すことが出来ました。ランゲンのワインは、世界中から求められ、愛されています。最も偉大なワインの地位まで上りつめる事、それがこのグラン・クリュの目標であり、強さなのです。